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furin pudding (5)

for ちょう


猫って冬眠するのね。彼女はレストランからテイクアウトした自家製プリンをスプーンですくって食べながら、そう言った。猫じゃないよ。僕は冷蔵庫を開け、そこに詰められているいろんな種類のプリンのカップを手にとってはラベルを確認し、積み直したり、並べ替えたりしながら、そう答えた。何のことについて言っているのかは分からなかったが。ベルギーチョコレートプリンの気分ではない。苺プリンでもない。プッチンプリンは昨夜食べた。いっそノンカロリーのゼリーでも食べようか? 結局、何も取り出さずに冷蔵庫の扉を閉めた。十年前、雪に埋まった村落を出た僕は山に入った。借り物のかんじきを装着し、手にはスキー用のストックを一本持って。日が陰ると風の音が聞こえた。数時間登ったところに、太い樹があり、内側に大きな穴蔵が出来ていた。僕は細心の注意を払いながら中を覗き込む。黒い毛の生えた熊が丸くなっていた。それ程大きくはない。冬眠中の熊だ。熊が穴蔵で長い夢を見ているのだ。僕は恐怖心と戦いながら、息を殺して熊を見守った。そう、そんな午後があったのだ。



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