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furin pudding (1)


車高の低いイタリアのスポーツカーではない僕の車の助手席で、ナオミはじっと前を見据えているように見える。ひどく大きなサングラスを掛けているのは目の周りのアザを隠すためだろう。クラッチバッグから口紅を取り出し、唇の形を整えると、時間ね、と言った。時間。僕は小さく溜息をついた。恐らくナオミは溜息に気付かなかっただろう。彼女はドアを開け、陽光の中へ出て行く。僕は彼女が人混みに紛れ、永遠に見えなくなるのを待ち、実際にほんの数秒でその通りになる。iPhoneの電源を入れ、時間を確認する。まだ期限までは充分ある。しかしもう待つ必要もあるまい。僕は狭い後部座席から小さなクーラーボックスを引き上げ、空いた助手席に置く。ジッパーを開ける手がかすかに震えている。糞っ。こんな気持ちになるなんて。クーラーボックスの中から「うれしいプリン480」をひとつ取り出し、乱暴に蓋のフィルムを剥がす。



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