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furin pudding (4)


プリンを食べなくなってどの位経っただろう。僕はダッフルコートの内ポケットからMyスプーンを取り出して眺めた。スプーンの凸面はひどく疲れた表情をしていた。それもそのはず。毎日のように乳白色のプリンやダークブラウンのカラメルソースを掬い続けてきたのに、ある日、食後に擦り切れたスポンジで洗われ、シルバー類を入れる水切りの小さな仕切りの中で自然乾燥させられ、いつものように内ポケットの暗がりに入れられると、その日からはそこから出されることなく、じっと外に出てプリンを掬うのを待ちわびていたのだから。早朝の北国の駅構内は人が少なく、電光掲示の発着案内が無音で文字や数字を流し続けている。駅構内だと言うのに吐く息は白くなった。こんな所まで来てしまった。彼女は来るだろうか。駅舎は逆光になっていて暗い。程なくして、その中に美しいシルエットが見えてくる。彼女だ。僕はスプーンをしまい、プリンを買いに走り出したい気持ちを抑え、彼女に微笑みかける。



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